ナイト・エスケープ 1


「で、なんでつかまったのよ?」
姫が僕の服を掴んで思いっきり揺さぶり、すさまじい剣幕で問い詰めてくる。
「助けが来るまでに何日も待ったのに、どうして同じ牢獄に閉じ込められてるのよって聞いてるの!」
なんか、ちょっと大げさなような・・・・・・。
身代金目的で姫が拉致されてから3時間。助けに相手の屋敷に忍び込んだのはいいものの。
入ったところが敵のリーダーの部屋だったなんて最悪だ。
どうして、映画みたいにちょうどよく部屋に入ってきたリーダー+取り巻き×4人と
出会い頭になるんだ。隠れる場所がカーテンだけっていうのもおかしい。
「ちょっと、あんたっ、はなし聞いてるの!」
「あんたのせいで外に出られないじゃないの、責任取りなさいよね!」
言うことを全て吐き出して、罵倒し終わったのか、
姫は僕のシャツから手をはなしてそっぽをむいてしまった。
耐え難い沈黙が僕と姫の背中の間に流れた。
「別に、つかまろうと思ってつかまったわけじゃないんだよ」
「自分で捕まる奴がなんかいるわけがないじゃないか」
ちょっと弁明してみる。
だが
「言い訳ならもういいわ!ここから出しなさい!今すぐ!ここにロープもあるじゃない!」
「ここにあるポリタンクだって積めば天にも届くわよ!」
人の話を完全に無視して、こちらに向き直る。
どうやら不満爆発寸前、いやもう爆発してるか。
何も考えず、むちゃくちゃなことをいうなぁ。まったく。
とりあえず、ここから出るには三つの手段がある。
まったく手の届かない天窓とどこに通じているか分からないダストシュート。
そして、けっして開けてはくれないだろう部屋の扉。
どれも物語の中だと有望な脱出口、現実の中だと絶望感を充分に判らせてくれる開口部。
絶望的だ。
だから監禁部屋なんだが。
いくらなんでも二人の身長をあわせて3mを超えない僕たちじゃ
外の大人に勝てそうもないし・・・・・・。
「なに、やってんのよ。考えてないで何かあるなら実行に移しなさい」
「ほら早く」
考えを巡らす僕のことなどまったく意に介さないように催促する。
催促されても無いものはないんだといいたい。
月明かりが真上にある天窓から照らし、天井の梁の影が床に落ち静かなこの部屋では、
考え事をするには最適だったが、幼馴染とふたりで閉じ込められるのには最悪だった。
「外にいる奴なんか、気にしなくていいわ。さっさと逃げなきゃ。明日学校遅刻するから」
おい、ちょっと静かにしてくれよ。無言で訴えてみる。
だが、明らかに相手の感情を読み取る能力のない目の前の少女はまた、僕のシャツを掴む
そして揺らす。
あぁ、視界が揺れる・・・・・・。
そして。
・・・・・・僕はひらめいた。
続き
書庫にもどる