サキヨミ 1
「あなたは神の存在を信じますか?
信じる人は信心深い人ですね。
信じない人は学校のテストで点数が悪かった人ですね。
あなたがたの意見はどちらでも正解です。
何故か。
神は存在するんです。
だったら信じない人は不正解だという人もいるかも知れませんね。
しかし皆さんが考えている雲の上から下を眺めて悠久の時を幾年も過ごし暇をもてあましているような存在ではありません。
なぜ言えるかと言うとこれに当てはまる存在に出会ったからです。
頭は大丈夫ですよ。
どんな存在かと言われますと、言えませんね。
つまらないでしょう?先に言ったら。
種は後から見ることになりますから大丈夫ですよ。
いつか必ず出会うことになりますから。いつか。
あなたと。
本章
初夏の日。郊外に向かう一本道で自転車を必死にこぐ高校生がいた。道は上り坂、汗が流れる。
「クッ」
周りには同じように自転車をこぐものはいない。まるで目的地までのタイムアタックをしているような姿があるだけ。
「遠い! 遠すぎるよ!」
と独り言を呟いていても田園風景の広がる周辺には聞くものはいない。
急いでいる理由は何か。
「あぁぁ!! 部活が始まる!!」
遅刻。ただそれだけのよう。
休日の晴れ渡った空の下、長い学校の道のりをその先にある目標へ。
「もう少しなのに」
帰りは楽な道も、行きは苦痛。しかしまだ楽なほうだった。平日ならば教科書の分重くなったペダルを漕がなければいけないのだから。
「ここで一気にこぐしかない!!」
特殊アイテムを使うときのように掛け声を出し、加速する。が、すぐに疲れて使用前より遅くなる。
ハァハァ……
それを繰り返しついには校門に進入する。ゴールへ。
自転車を自転車置き場に止め部室へ。
「点呼取ります」
中では部活動が開始されようとしている様子。入りにくい雰囲気。しかし意を決して中に入る。
「こんにちはぁ〜」
いかにも疲れきった声で先輩たちに挨拶する。先輩たちは無表情で挨拶を返したり、無関心であったりと様々な反応。
急いで荷物をロッカーに入れ、いろいろぶつかりながら走って着席。点呼に参加。他の部員は皆静か。
3年生と2年生の点呼が終わり
「1年生……柳さん」
自分の名前が呼ばれたことに気がつき顔を上げ返事をする。習慣づいた動作は機械的かつ無反応。やる気は少しも感じられない。
点呼が終わると活動内容が部長の口から淡々と出てくる。
言い終わると
「起立。これから部活動を始めます。気をつけ。礼」
当たり前の習慣となったこの行動。やる気がなさそうに感じられる。
「それぞれ所定の場所で練習して」
部長がそう言う。
部室の奥へ行って自分の道具を取り出す。そして先輩たちとともに重い道具を持って練習場所へ。
つかれきっている体には大きな負担がかかる。
「なんでおくれたん?」
先輩の部員から発せられた言葉。他の者も静かに聞いている。
「ちょっと寝坊しまして……」
理由を率直に述べる。
「良くあることだね。まったく注意しなきゃだめだよ。部活の時間は限られているんだから」
とやる気のなさそうな声で返されてくる。他の者はウォーミングアップをし始める。
そんなだらけた雰囲気の中ウォーミングアップを他の者に続いてやり始める。
が心地よい疲労と、寝坊の原因の寝不足が意識を途切れ途切れにさせる。
当然周りの者もその異変に気づくが誰も注意しようとはしない。
ついには眠くてたまらないのでトイレに行くといいながら校舎内の自分の教室へ向かう。休日であるから誰もいない。
「眠い」
目をこすりながら歩き続ける。必死に漕いでいたときには遠のいていた睡魔が復活。
で到着。自分の席に座り、手を枕にして机に頭を下げる。そして静かな寝息を立て始める。しかしその眠りも長くは続かない。
意識の中で部活が行かなくてはという意思が頭によぎる。その瞬間、覚醒する。
「本当に眠い」
少し寝ぼけながら席を立とうとする。そのとき机に足をぶつけ、机を倒す。中に入っていたノートが一冊机の中から出てくる。
落ちた拍子に開く。
「うん? なんでノートが? 全部持ち帰っているのに」
その疑問によってここは隣の空き教室だったと認知させた。
「あぁ、ミスしちゃった。眠すぎるからもう」
頭を振り、眠気を追い払おうとするが一向に消えそうに無い。
とりあえず落ちたノートを拾おうとしたとき、そのノートに興味を持った。
「研究:死神と四次元?」
意味不明。ノートの開いたページを見て不思議に思い表紙を見るとそう書いてあった。普段ならそんなもの興味を示さないが、
寝ぼけた頭には面白そうという感情以外は浮いて来なかった。
パラパラ……
なかなか面白そう。
なになに、う〜ん?
人間の命というものは3次元の縦(x)、横(y)、奥行き(z)に4次元の時間(τ)という座標で体につなぎとめられている不可視物質?
で……つまり命は(x,y,z,τ)によって示される座標上の点?その(τ)を変化させるのが死神?
あまりに適当だねこの理論。
「誰が書いたんだろう?」
ネタとして面白そうな感じが漂う。
このノートをもう少し見てみたい。とりあえずめちゃくちゃかどうかはもっと見て見なきゃ分からない。
そんな感じで机の中に入っていたノートを部室のほうへ持っていく。
初夏の日の空は一層まぶしく、建物の影をより一層深くしていた。
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