Q.E.D 2

 さて、このように絶体絶命の状況の中、やはりミネルヴァの内部でも大きな混乱が巻き起こっていると思われます。島の統制権をにぎっている上層部の独断、それがこの出来事の発端だったと見られており、何人かは脱出を試みていたようですが、いずれも失敗しているようです。とにかく、内部の情報の漏洩が全くなく、なんの情報もありません。

 それも当たり前といえば当たり前なのです。もともと研究内容は万国で利用できるというのがこの島の存在意義でした。しかし、ある国がデータを用いて研究を行っているとき、それと敵対する国がミネルヴァを通じてデータの改ざんを行うという出来事が頻繁に発生。それが引き金となり複数のセキュリティが設けられるようになってゆきました。

 世界はいまだ歪んだままでした。その歪みは崇高な理論で武装されたミネルヴァをすこしずつ、ゆがめていったのです。セキュリティは、各国の 研究の精度をより高いものにしていきましたが、その過程で隠れた情報がミネルヴァには蓄積されていくことになっていたようです。

 このようにセキュリティが武装しているにもかかわらず、数年に一度その壁を突き破るものが存在しました。そのたびにセキュリティは、強化されてゆき、いつしか不世出の天才にも、どんな魔法使いであっても、突き破ることができないものになっていきました。

 壁は確実に見えない領域を形づくり、厚みが増すほどにミネルヴァの全容は見えなくなっていきました。そんな中、発生したのが今回の事件。 完全なる壁で覆われたミネルヴァの中をどうすれば見ることができるというのでしょう? その厚い殻の中でいったい何が行われているのでしょうか?二日たった今でもまったくわかりません」

「だってさ、これ、どうするの?」 目の前の衛星中継を消しながらハルカは横で紅茶のティーパックを揺らしている女性に話しかけた。

「う〜ん、といってもねぇ。起こってしまったものはしょうがないのよねぇ」 ソファとテーブル、素晴らしい省エネ性能をうたった薄型テレビなどがおかれたリビングの中で二人の女性が会話を始めた。

「もとはといえば、実験のために電力の優先順位を変えただけじゃなかったけ?」

「そうなんだけどねぇ。ちょっとした手違いだったらしいのよ。チェレンコじーの計算間違いだったのかもしれないし、予測値とは違ったできごとがあったのかもしれない。でも当の本人はまだ実験してるみたいで全くわからないし」  ほほに手をあてながら手に持った紅茶をすする。
「真相は闇の中ってかんじかしらねぇ」

 適当にあしらわれたハルカは手にレポート用紙の束を持ちながら立ち上がった。「どちらにしても、はやく世界に向けてなんか発表しないとちょっとした戦争とか起きちゃうかもしれないよ?」

 そして、部屋のドアを重そうに開けると、廊下へとすたすたと出ていってしまった。一人残されたメグは紅茶を一息に飲み干し、カップをキッチンのシンクに入れ、大きく伸びをすると外の景色をみた。外はやっぱり暗いままで、すぐそこには数え切れない星々たちが手を伸ばせばつかめそうなほどにまたたいていた。

「さぁて、実験、実験と」 メグは部屋の照明を消し、部屋からのっそりと出た。

部屋をでた廊下は暗い。なれていたつもりだったが、やはり少し暗すぎる。
「やっぱり電力不足なのねぇ」 ふらりふらり、ぺたぺたと、ほの暗い中、壁伝いに歩くと、遠くで大きな地響きのような音がした。それは外の方から響いてくるようだった。

 振り返ってそちらのほうを見てみた。
音のする方を見てみても、視界はやはり暗くて、何がおきているのかはまったくわからなかった。
「またどっかでどんぱっちやってるのねぇ。うるさいこと、このうえないわぁ」
 さも、眠そうに口許に手を当ててあくびをした後、向いていた方から目を戻し、前をみて、目的の部屋につづく廊下を歩いていく。

 その部屋の前に立ったとき、わずかにドアが開いていることにきがついた。そこからは、わずかな光と声がもれていた。

前の話。
続き。
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