サキヨミ 4


「引き続き対象の様子を観察」

「了解です」

 歩きながら会話をする。そして二人はまた影へと入っていく。
その姿は誰にも見えない。遠くにはかすかに部活動の喧騒が聞こえる。

T.C.P.S起動。40分後の観察を開始する。

―――――――――

――――というわけで

「本日の部活はこれで終わります。明日も部活があるので忘れないように。少なくとも文化祭までは休みは少ないですから。
少しでも早く練習したい人は7:30に学校が開くので鍵を取ってきてここで練習してください」

 部長の言葉に皆がやる気のなさそうな声で返事をする。
 晴れ渡り日差しがまぶしい青春にはまるで似合わない。

「起立」

「気をつけ」

「礼」

「ありがとうございました」

 この後残って練習することもできるが眠い上にやる気も無い。他の友人たちは今日という休みを有効に利用することに

夢中で練習なんてしていくわけが無い。

文化祭の失敗が目に見える。

「さ、帰ろ。ヒロ」

 例のごとく、ユキコが声をかけてくる。こいつも練習しない。正直性格も似ていて帰る道も一緒だから

二人はここまで親しくなれたのではないかと思っている。

「うん。わかった」

 暑い初夏の日差しの下、自転車乗り場へ。そして走り出す。来る時とは違い、下り坂。学校から解放された解放感と

涼しい風でより一層気持ちよく感じられる。

「はぁ〜気持ちいい」

「やっぱり田んぼはなんか……、う〜ん、こう、あれ……うんえ〜と、そう癒し効果があるよね。酸素が風に乗ってきて気持ちいい」

「その意見に同意」

 しばらく取りとめも無い会話をし続ける。その間に風景は徐々に変わっていく。
 市街地に近づくにつれて、交通量が増え歩道も狭くなっていく。

「狭ッ!いつ思ってもここらへん狭いよね。向こうからやってくる自転車避けれないし」

 文句を言い続けるユキコは「じゃ、明日も」という言葉を残して会話を中断。自分の帰り道に向かっていく。こちらも自転車を自
分の家の方向に向ける。

 しばらくして家に到着する。自転車を車庫に入れ玄関の鍵を開ける。音も無く玄関の扉をあけ家に入る。きちんと施錠し直す。

「ただいま……」

 帰って来る言葉は自分の声だけ。家の中には誰もいない。みんな自分の仕事をしている最中。いつものことだから何も思わない。

そして2階の自分の部屋へ。

 部屋に入り、荷物を置く。そこではじめて気づく。自分はすごく空腹であることに。それでもう死にそうだということにも。

「ろくに部活してないに」

 そこで机の引き出しにしまってある非常用食料別名iメイトを取り出す。それと同時にPCの電源をつける。
 この食料さえあれば少なくとも家族が帰ってくるまでは持ちそうだ。二つの箱を空にする。

一通り食べているうちにPCが起動し終わる。ネットへ接続し、動画投稿サイト『インテリ動画』へ。
このサイトいつも思うがサイトの名前と投稿されている動画のギャップが激しいように思う。いや激しい。

「本日のランキングは……やっぱり『3踊り』が一位……」

 この動画を見ると数十分前の光景がよみがえり、腹筋が痛む。
本物はすごかった。

「二位は……『【続編】審判者part4【新作】』。あぁ……個人制作アニメだったっけ?
たしか天からなんかノートみたいなのが降ってきて……あ、ノート?う〜んそういえば……なんか忘れているような」

「ノート」という単語に一瞬何かを感じた。

「週末課題?いや違う……。う〜ん、あ……。そうだ。あのノート……」

 居眠りしたとき出てきたノートを思い出す。そして再びノートを読むためにカバンから取り出す。

「研究:死神と四次元……」

いかめしい題名で飾られた何の変哲も無いノート。とりあえず1P目を開く。

そこには目次が。

次のページを開く。
そこは先ほど読んだページだったが今見てみると雰囲気が違う気がする。
「基礎概論:τ-ρ理論(タウ‐ロー理論)

 元来我々がいるこの世界は三次元であるという。だが私の理論上四次元が存在しているのは間違いない。
 私はこの四次元というのは実はこのような世界ではないのかと疑っている。
〜なんか長いので中略〜
 前述したとおり、人間の命というものは3次元の縦 (x)、横(y)、奥行き(z)に4次元の時間(τ)という座標で
体につなぎとめられている不可視物質であるという仮説を立てた。

 すなわち座標(x,y,z,τ)により我々は存在している。しかしここで疑問が生まれる、それならばなぜ死があるのか。
τが変異し続ける限り永遠に生きることができるはずである。それならば」

少し疲れたから休憩。PCに向かい動画を見始める。

「これあげたら面白いかも。サイト名にめちゃくちゃあってるし」

そんな戯言を言っても撮影器具が無いのにどうしようというのだろうか。

「やっぱ、無理か」

 そんなことを思いながら取りとめも無く動画を見る。すぐに時間が過ぎる。休憩はこれくらいでいいだろう。

「はぁ……この文体難しすぎる。もっと簡素にまとめられないの?ええっと、4次元の時間(τ)という座標で

体につなぎとめられている不可視物質であるという?え?

ここさっき読んだ。もっと下……。 

それならばなぜ誕生というものがあるのか。

 私はここで新たに仮説を立てる。この座標にはもう一つの成分があるのではないか?と。

 それがあれば死とに説明をつけることができる。

 その成分を私はρとした。ρは時間軸τともに変移しつづける生命という物質をこの世界に出現させたり、隠れさせたりさせる

スイッチの役割を果たす。この理論なら
〜なんだか眠くなったので中略〜

 よってなぜヒトにだけ生命つまり感情というものがあるのか分かる。よってここにまとめる。
 この理論はヒトの感情という物質を(x.y.z.τ)+ρという座標で表すことができ、そして

これに干渉を行うことで生死に干渉することもできるはずであるということ。

私はこれをτ‐ρ理論と名づける。
                            」
ゴン!!

あまりの眠さに頭を机にうつ。このまま寝てしまおう。
 外的要因と内部的要因で頭が痛い。そしてノートをとりあえず閉じる。そして机から立ち上がり、ベッドに倒れる。

すぐに健やかな静かな寝息を立て始める。

―――――――

「対象睡眠へ入りました。これ以上の観察は無駄だと思いますよソラさん」

 この後起こる出来事を早送りで見た。なんてつまらない。こんな任務めんどくさいこと限りない。このままこの時空域に

留まらなければいけないのか。

「よし、いったん休憩だ。自販機でも行くか?」

「いいですよ。ここ影ですけど気温は高くて結構つらいですから。のど乾きました」

二人は学校資料館の影から抜け出し自販機へ。生徒たちの声が再び聞こえるようになる。

「先輩。おごってください」

「嫌。拒否する。自分の予算で買え」

「それでも先輩ですかぁ〜?」

 そんな会話をしながら歩く。ふと横の開いた窓に目をやると文芸部と書かれた紙とその近くでPCで文章を打ち込む男子生徒。

その原稿を受け取り、

それを読む女子生徒が目に入った。

その光景は、

なんだか、うらやましく

そして、微笑ましい。

私の長い経験から二人はお互い思い合っているのがわかる。相思相愛だ。

ふいに、今の自分が目の前のこととは、無縁であることに気づく。

そして、思う。

あぁ、私にこんなときが来るのだろうか
続き
前に戻る
書庫にもどる